事例紹介

注目の事例似て非なるもの? -メソゼアキサンチンとゼアキサンチン-

このほどオムニカ研究室では、医学博士・久保明先生及びその事務所の協力のもと、メソゼアキサンチンの摂取がカロテノイドのADME(Absorption(吸収)、Distribution(分布)、Metabolism(代謝)、Excretion(排泄))にどのような影響を及ぼすか、新たな試験を実施しました。

メソゼアキサンチンはカロテノイドの一種で、ゼアキサンチンの立体異性体です。ルテインやゼアキサンチンに関する研究例は国内外で多数存在しますが、メソゼアキサンチンに関する報告はこれらほど多くありません。

 

・ルテイン:(3R,3’R,6’R)-β,ε-Carotene-3,3′-diol

・ゼアキサンチン:(3R,3’R)-β,β-Carotene-3,3′-diol

・メソゼアキサンチン:(3R,3’S)-β,β-Carotene-3,3′-diol

 

 

今回の試験に用いた試料の1つは、これまで国内での安全性・機能性試験が実施され、機能性表示食品用としても多くの届出受理実績を有するルテイン「Hi-Fil」です。この素材はメソゼアキサンチンを含みません(試料1)。これに対し、2つめの試料として「メソゼアキサンチン」をルテインとほぼ同量含む試料を作成し(試料2)、それぞれの2週間連続摂取の前後で、ルテイン・ゼアキサンチン・メソゼアキサンチンの血中濃度を比較しました。

●各試料中のカロテノイド分析値
ルテイン ゼアキサンチン メソゼアキサンチン
試料1 16.54 mg/粒 1.27 mg/粒 0.00 mg/粒
試料2 0.79 mg/粒 2.02 mg/粒 17.37 mg/粒

 

事前の調査で、ルテイン血中濃度が0.4 μmol/mL 未満の被験者においてはゼアキサンチン比率が高く、0.6 μmol/mL以上の被験者においてはゼアキサンチンの比率が低い傾向が確認されました。

これに基づきルテインの血中濃度について0.6 μmol/mL を推定定常値とし、それより高位か低位かで分けたところ、Hi-Fil摂取群において、低位者においてはルテイン血中濃度は約2倍に増加し、高位者においてはルテイン血中濃度は上昇せずに、ゼアキサンチンの血中濃度が2~3割増加される、という現象が観察されました。この結果、Hi-Fil摂取により、血中ルテイン高位者低位者の両者でルテイン・ゼアキサンチン血中比率は5:1組成に漸近していく傾向が示されました。

一方、メソゼアキサンチンを含む試料の摂取群では、血中ルテイン濃度の低位者、高位者のいずれにおいても、血中ルテイン濃度及びゼアキサンチン濃度の変動がほぼ見られませんでした。

黄斑色素に蓄積されるカロテノイドはルテイン:ゼアキサンチンがおよそ3:1の比率で、血液中においては、およそ5:1の比率と、個別の臓器組織ごとに多種多様のバランスがあり、それらキサントフィルの組成比率は食事中ルテイン・ゼアキサンチン摂取組成とは無関係にデカップリングされ、ルテイン摂取は血中濃度の上昇よりも、定常比率への回帰が先行することが推定されます。今回の試験では、この推定を裏付ける結果が得られました。

また、ルテインとゼアキサンチンの2化合物は相互に可逆的代謝物の関係にありますが、メソゼアキサンチンはこの代謝経路の外側におかれています。今回の試験においては、メソゼアキサンチンの摂取による血中ルテイン濃度等の変化は特段みられず、その有益性に関する具体的なエビデンスは示されなかった、という結果となりました。

この試験ではメソゼアキサンチンをルテインと対比しましたが、メソゼアキサンチンそれ自体を評価検討する文献はほとんど報告されておらず、前例が見当たらない珍しい対比試験となっています。オムニカ研究室では、最新の知見を参考にしつつ、新たな切り口で機能性成分の可能性を日々探っています。

メソゼアキサンチンはヒトの体内にも存在しますが、ゼアキサンチンと対比すると、分子内にキラル中心を有するものの対称面も有するため、キラリティーを示さず「光学不活性」となります。

市場にはメソゼアキサンチン量もゼアキサンチン量に含めて規格化した製品が存在していますが、今回の試験の結果においてメソゼアキサンチン摂取の有用性は見出せず、これをゼアキサンチン量の一部としてカウントしてよいのか、という新たな疑問が生まれました。